繊維とは、元来は布を織る材料となる糸の素材のことで、ASTMインターナショナルの定義では、繊維は材質を問わず、長さは直径或いはは巾の100倍以上あるものとされています。
繊維の種類
繊維の種類を大きく分けると、天然繊維と化学繊維の2種類に分類されます。
天然繊維は主に自然の中にある天然素材を原料とし、更に植物繊維(綿、麻等)と動物繊維(羊毛、カシミヤ等)、鉱物繊維(石綿)に分けられます。植物繊維は植物から採集されたもので、熱や洗濯などに強いです。動物繊維は元々動物の身を守る為の役割で、保温性と保湿性が優れている上、体に優しいものがほとんどです。そして鉱物繊維は天然の鉱物から得られる繊維としては石綿があります。
化学繊維は主原料が石油・人工的に作られる高分子からなり原料や製造方法によって、合成繊維(ナイロン等)、再生繊維(レーヨン等)、半合成繊維(アセテート等)、無機繊維(ガラス繊維等)の4つのグループに分けられます。天然繊維に比べ、強度、耐水性、耐薬品性等が優れていますが、吸水性、耐熱性はより弱いです。
合成繊維は主に化学的プロセスにより石油などから合成・製造される繊維の総称で、「人造繊維」とも呼ばれています。強度、耐水性、耐薬品性、防徽性など優れているのが特徴で、形状や製法を工夫することで、さまざまな断面の形を持つ糸を自由に作ることが可能です。
再生繊維は天然高分子化合物を原料にそれを溶解してから紡糸したもので、レーヨンやキュプラなどが代表的です。天然のセルロースなどからなる木材や綿などの天然繊維を、化学反応によって一度溶解して、再度紡糸して作られます。
半合成繊維は天然の高分子物質を化学的に処理して形を変え、繊維にしたもので、合成繊維と再生繊維の中間的なものです。独特の光沢があるのが特徴で、発色性に優れています。
無機繊維は無機物からできた繊維のことで、一般的に樹脂や金属の強化繊維として使われることが多いです。不燃性を有するのが無機繊維一般の特徴となっています。
同一の素材を使用している布地でも、特徴やメリット・デメリットには差がございます。あくまで一般的な繊維の情報としてご覧ください。
スリングシート製作でよく利用する各糸の特徴
1. ナイロン
ナイロン(Nylon)は石油を原料とした合成繊維のひとつで、世界初の合成繊維です。米国のデュポン社がナイロン66を発明したのが1935年になるため、化学繊維の中でも古い歴史がある繊維とみられます。ナイロンという名前は脂肪族ポリアミド合成繊維(Polyamide)の総称として使われていますが、もともとは同社の商標でした。
種類としては、ナイロン6、ナイロン6.6、ナイロン12などがあります。種類の後ろにある数字は、合成原料の炭素原子の数に由来します。スポーツウェア、バッグ、ファッション小物、ロープ、軍事用品、テント、タイヤ等、様々な分野でいろんなものの製造に利用されております。
メリット:
- ) 他の合成繊維に比べて、磨耗や摩擦に強い。
- ) 染色しやすく、柔軟で薄くて軽い生地が生産可能、発色性にも優れている。
- ) 耐薬品性に優れるとともに、海水や油にも強い。
- ) 吸水性が低いため、濡れてもすぐに乾く、水による型崩れがしにくい。
- ) カビなどを受けにくい。
- ) 燃えにくく、低温でお硬くなりにくい。
デメリット:
- ) 白いナイロンの紫外線や日光照射による黄変しやすい。
- ) 酸や熱に弱い。
- ) ポリエステルに比べて価格が高い。
- ) 吸湿性が低い。
2. ポリエステル
ポリエステル(Polyester)も石油から作られる合成繊維の一つで、世界で最も生産量が多く、頻繁に使われている素材です。1941年にウィンフィールド氏とディクソン氏はイギリスで開発され、1946年に公開されました。1953年にアメリカの工場はPET繊維の製造がはじめて、天然繊維より安価な繊維を供給できるようになりました。
ポリエステル繊維はいくつか種類があり、大きく分けて主に次の三つです。ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)とポリブチレンテレフタレート(PBT)です。そのうち、最もよく知られているのが「PET」で、ポリエチレンテレフタレート(POLY-ETHYLENE-TEREPHTHALATE)の最初のアルファベットをとって省略したものです。ペットボトルの原料でもあり、この「PET」は、ペットボトルの「ペット」と同じです。
ポリエステルは溶融紡糸法という方法で製造されます。原料を加熱して融解し、細い穴から一定速度で空気や水の中に押出してから冷却固化させる。細い穴の形状を変えることで繊維断面の形状や細さを変えることができます。生地の風合いや機能性が異なるアイテムの生産が容易になります。
メリット:
- ) 耐薬品性に優れる。
- ) 耐久性があり、洗濯に強い。
- ) 吸水性及び吸湿性がなく、乾きやすい。
- ) カビなどの影響を受けにくい。
- ) しわになりにくく、保管が簡単。
- ) 安く手に入れる。
デメリット:
- ) においや汚れを吸着しやすい。
- ) 静電気を起こしやすい。
- ) 色落ちしやすく、染色が難しい。(130℃以上の高温下で染色する)
- ) 毛玉ができやすい。
3. ポリプロピレン
ポリプロピレン(Polypropylene、略称PP)は無色、半透明で、熱可塑性樹脂の1種です。1954年にドイツの化学者カール・チーグラーにより発見され、その後1957年にイタリアのモンテカチーニ社が生産するようになりました。日本で工業化をスタートしたのは1962年でした。
現在、ポリプロピレンは、建築・建設資材や家庭用品として容器、おもちゃ、スポーツ用品、電気器具、カーペット、包装材料、繊維、文具、プラスチック部品、実験器具、スピーカーのコーン(振動板)、自動車部品、紙幣など、様々な用途に使用されています。
また、ポリプロピレンは熱可塑性にも優れることから、リサイクルの比較的容易な合成樹脂です。
メリット:
- ) 水を通さない。
- ) プラスチックの中では一番軽い。
- ) 複雑な成形、切削、切断などの加工性に優れる。
- ) 着色した時の発色性がよく、表面光沢がある。
- ) 耐熱性、耐摩耗性、機械的強度に優れる。
- ) 酸やアルカリにも強く、耐薬品性に優れる。
- ) 絶縁性があり、電気的特性が良い。
- ) 低コストで大量生産できる。
デメリット:
- ) 耐候性が悪く、日光に長時間あたると白化する。
- ) 熱による膨張係数が大きい。
- ) 接着性が悪く、表面に何かを接着するのが困難である(専用の接着剤はある)
- ) 特殊な表面処理をしないと、印刷ができない。
- ) 可燃性がある。
参考・引用資料
- 下村寿. 繊維の分類. 繊維製品消費科学, 1967, p.271-278.
- Whyman, Robin. 碇屋隆雄・山田徹訳. 有機金属と触媒 -工業プロセスへの展開, 2003.
- 繊研新聞社. 繊維・ファッションビジネスの60年, 2009.
- 中澤靖元・松島朝秀・朝倉哲郎. 繊維開発の歴史と我が国の繊維産業の技術革新に関する研究, 2008.
- 上出健二. 繊維産業史概論, 1993.
- 岡叡太郎、宗像英二、和田野基. 化学繊維, 1956.
- 中村真悟. 石油化学工業における多品種大量生産プロセスの成立と展開 – ポリプロピレン生産プロセスを事例に, 2014.
- 佐伯康治・尾見信三. 新ポリマー製造プロセス, 1994.
- 井上隆一郎. ある大企業モンテカチーニの没落, 1967.
- Pasquini,N. 横山裕・坂本浩訳. 新版ポリプロピレンハンドブック, 2012.